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2009年8月 7日 (金)

一人勝ちのマック〈8月〉

 小売業の勝ち組はユニクロですが、外食産業の勝ち組はマクドナルドです。
外食産業は酒気帯び運転に対する罰則の強化に端を発した郊外店の不振に加え、最近では本物の消費不振の影響を受け、軒並み前年比売上を落としています。
そんな中にあって、マクドナルドだけは日本の外食産業の中で初の5000億円の大台を越し5183億の売上をあげ(2008年12月)、経常利益182億を達成しました。
この5年間で全店売上高を1316億(134%)、経常利益を163億(858%)伸ばしたことになります。
売上を伸ばし利益を伸ばすためには通常出店を積極的に行いますがマクドナルドの店舗数は3773(2003年末)から3754(2008年末)と微減しており、売上の増加は全て既存店1店当りの売上高の増加によって達成されていることが特筆されることです。
 日本マクドナルドは1971年銀座三越の一角に1号店を開店し、華々しくスタートを切りました。
アメリカに本拠を置く外資系企業でありながら大家族主義を貫き、憖じ(なまじ)の日本企業よりも日本的経営の傾向が強い「青い目をした日本企業」でした。
社長である藤田田氏は「ユダヤの商人」などの著書を著(あら)わし、接する人の心をわしづかみにするような魅力あるカリスマでした。
「あの人に認められたい」それが藤田時代の会社の原動力でした。
しかしカリスマはまた弊害も生みます。
「藤田さんに任せていれば間違いない」という依存心と思考停止を生み出します。
藤田時代の終盤はハンバーガーの価格を65円、80円、59円ところころ変えマクドナルドの客の価格に対する信頼感をなくさせました。
また業績の落ち込みをカバーするために猛烈な出店を強行しました。
こうした場当り的な戦術の繰り返しによって、マックの基礎体力は徐々に蝕(むしば)まれていきます。
外食産業の基本は「Q(Quality品質)S(Service接客)C(Clearness清潔)」の3つです。
業績悪化をカバーするために出店攻勢をかけた結果、既存店舗に対する投資は後回しになり現場は荒れ「Q.S.C」は悪化します。
汚い店舗に不親切な店員と不満足なサービスでは、どんな商品があっても売れません。藤田時代の終盤はどこの失敗経営にもみられる、混乱と迷走の時代でした。

1年間はQSC以外何もしないでいい

 2004年5月、アップルコンピュータ日本法人の社長から現社長の原田泳幸氏が日本マクドナルドのCEO(経営最高責任者)に就任しました。
その当時マクドナルドの業績は危機的状況にありました。
2003年9月まで24ヶ月連続で既存店売上高は前年同月比でマイナスをつづけており決算は2期連続で最終赤字でした。
来店客の落ち込みにも歯止めがかからず、社員達は「ハンバーガーはあきられてしまった、何をやってもダメだ」と半ば諦めにも似た感情に陥っていました。
現場は荒れ、モラルは低下し切っていました。
 そうした時に現社長の原田氏は就任しました。
就任したその日、幹部社員を集め「1年間はQSCの向上だけに取り組め。それ以外は何もしないでいい」と言います。
そして、全社員を集めて宣言します。
「全店売上高6000億円、これは必ず達成する。それを達成するバスに乗る者はバスの運行のために全力を尽くせ。それができなければ乗らなくてもいい」
そして直ちに組織改革を行います。
全国を5つの地区に分けていた地区本部制を解体し、組織をフラットにしました。
全員の役職を解き、新たな仕事を与えます。
誰一人として、それまでと同じ仕事を与えられた者はいませんでした。
組織を変えると宣言して人事異動までわずか3日のスピードです。

原田氏のしたことは3つあります。

 1つ目は「土台づくり」です。
社内風土を変えるための組織を変えQSCの向上だけに経営資源を投入しました。
その切り札が注文を受けてからハンバーガーをつくる新たな厨房システム「MFY(メイド・フォー・ユー)」です。
作り置きによる食味の低下を防ぎます。
彼の就任時にはMFYの導入は50%未満でしたが導入を一気に進めました。
これに対しては「現場が悲鳴をあげている」という声もありましたが無視しました。
 2つ目は「客数」の増加のための100円マックの投入です。
これには「利益率が落ちる。以前失敗した」という声がありましたがこれも無視しました。100円マックの投入により客数も増えましたが客単価の減少幅が思いのほか大きく、既存店売上高が減少し、現場は青ざめました。
しかし「こんなに客数が伸びるなんてチャンスじゃないか」といささかも動じることはありませんでした。
 3つ目は「客単価の上昇」です。
100円マックで取り戻し、新規に獲得した客に対し客単価UPのために新製品「エビフィレオ」や「メガマック」などを投入し、ヒットさせます。
こうした高付加価値商品は「健康志向で売れない」「主要顧客層には価格が高すぎる」などの反対意見もありました。
高付加価値商品の極めつけは2008年11月に発売された「クオーターパウンダー」です。通常のおよそ2.5倍のビーフパテを挟みこんだアメリカンサイズのハンバーガーは一個350円もするのにも拘わらず飛ぶように売れ、会社の業績を引っぱり上げました。
この商品は原田氏の就任直後にも計画されましたが、「誰もがマクドナルドをバカにしている時に新商品など出しても売れない」と氏が反対していたものです。
QSCという土台が整ってから出したため成功したのです。
 原田氏は「不振の原因は全て社内にある」といいます。
いろいろ理屈をつけてやらないのは自らの努力不足に向き合わない弱さの現われだと考えます。
「できる方法を考えろ」が口癖です。諦めない、絶対にやり抜くという有無を言わせない氏の実行力がマクドナルドをここまで引き上げてきた理由です。

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